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ケイコモリについて

写真について

子供の頃、家にはキヤノンの「オートボーイ」があり、「写るんです」があり、飛行船に描かれたフジフィルムの古い「Fuji」マークが妙に好きだった。手を伸ばしても届かない場所に描かれたものには、何かこう、ぐっとくる。それでぼくは子供ながらにキヤノンよりもフジのカメラが欲しいと思っていた。けれども長いこと、特に写真をやろうという気にはならなかった。2005年、フジフィルムのロゴは刷新され、赤い幾何学的な「Fuji」のロゴはこの世から消え去った。

本格的に写真を撮り始めたのは2008年と、それから3年後。実はわりと最近のことだ。それまでぼくは絞りやシャッター速度さえわからないカメラ音痴で、職場のカメラも「P」でしか撮れなかった。何かの拍子に「M」になったが最後、「故障した、フラッシュが焚けない! 何も写らない!」と大騒ぎするほど“カメラ音痴”だった。

きっかけは、一人旅だ。一人旅というと格好いいけれど、ぼくの場合、インドにバックパック旅行とかじゃない。ヨーロッパに古城を訪ねるわけでもない。なぜか夜行列車とフェリーで佐渡島まで日帰りで行こうと思い立ち、家電量販店のワゴンで投げ売りされていた6000円のコンパクトデジカメと財布とウォークマンだけ持って家を飛び出したのだ。

…失恋したはずみで、ちょっと頭がおかしくなっていたのかもしれない(笑)

深夜0時に池袋を出、朝イチのジェットフォイルで島に上陸したぼくは、わずか5時間の滞在時間の中、寝不足もあってもっと頭がおかしくなっていた。タクシーのおじさんに握手を求めたり、限界集落のお婆さんに握手を求めたりした(※ふだんは絶対にそんなことしない)。

たぶん、生まれて初めての一人旅だったから、目に飛び込んでくるもの全てが新鮮だったのだと思う。目の前に広がる賽の河原や、荒れた海が、なにかとてつもなく非現実的で、偉大な何かに見えはじめて、ぼくは6000円のカメラで無心にシャッターを切った。そして「ああカメラって面白いかも」と気持ちよくなってしまったのだった。もっとカッコイイことが書ければいいのだけど、ようは、それだけのこと。そして、強いて言うなら、そのデジカメはフジフィルム製だった。

かくしてぼくは写真を撮り始めたのだった。

その翌年、友人の結婚式で、ぼくの可愛い6000円カメラは友人のお兄様のお尻に踏まれて玉砕した。それを機に、ぼくはお金を貯めて、フジフィルムの高級一眼レフ「s3pro」を買い、ずっと愛用し続けている。そのボディには、子供の頃に好きだった古い「Fuji」のマークがあった。


ロケーション(廃墟・遺構等のみ記載)

軍艦島(長崎県端島)、魚雷発射基地跡(長崎県川棚町)、清越金山(静岡県伊豆市)、大仁金山(静岡県田方郡)、地名発電所(静岡県榛原郡)、大井川鉄道側線SL廃墟(静岡県島田市)、太平洋セメント(埼玉県秩父市)、足尾銅山本山製錬所(栃木県日光市)、エンジェルビル(東京都渋谷区)、同潤会アパート(東京都台東区)、小串鉱山(群馬県嬬恋村)、常磐炭鉱(茨城県日立市)、廃ホテル(東京都新島村)、養豚場跡(東京都神津島村)、陸軍火薬製造所(群馬県高崎市)、海軍鹿島航空隊基地(茨城県稲敷郡)、製紙加工工場廃墟(茨城県高萩市)、中郷炭鉱(茨城県日立市)、竜宮洞穴(山梨県南都留郡)、村樫石灰戸叶鉱山(栃木県佐野市)、ループ橋(静岡県伊豆市)、鋸山(千葉県安房郡)、小網代の森(神奈川県三浦市)、城ヶ島(神奈川県三浦市)、イギリス・ロンドン市街、イギリス・カンタベリ大聖堂、イギリス・ライ村、アメリカ・シアトル市街、御岳山(東京都奥多摩町)、曽木発電所跡(鹿児島県大口市)、屋久島(鹿児島県屋久島町)など。

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